2002/04/22
雀鬼軍曹殿
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雀鬼軍曹、ジャンキ軍曹ではなく、スズメ鬼軍曹と読んでください。我が家には一年中オールシーズン、スズメたちが給餌を期待して訪れる。まさしく家之子郎党といいたくなるほどずっと一緒にいる。その関係で知っているのだが、スズメが繁殖期になり、やがてふわふわした色の薄い(親鳥は濃い茶色)ミルクコーヒー色の若鳥たちが出現する。飛ぶのも不慣れでパタパタと怪しげに飛ぶ。恐ろしい人食い鬼のカラスどもに襲われるのもこの時期だ。人食い鬼のチクショウは可愛い雛のような若鶏をふてぶてしい巨大な嘴でくわえていき、食べてしまう。その時期に出現するのが、スズメ鬼軍曹だ。要するに初年兵をキビシク鍛えるのが任務の教育係なのである。 皆さんも注意してスズメの鳴き声に耳を澄ませるとすぐわかるが、テケテケテケ、と鋭く圧倒的な叱正の指示を放っているのが、私のいうスズメ鬼軍曹なのである。スズメ鬼軍曹の指示を身を入れてきかないぽうっとした連中は、人食い鬼のカラスの嘴で命を落とす。 皆さんもハリウッド映画で鬼軍曹が初年兵をしごき倒すシーンはご存知であろう。あらん限りの悪罵をたたきつけ、初年兵がへとへとになるまで引き回し、小突き倒す。あのイメージがわれらの「スズメ鬼軍曹」そのままである。 スズメ鬼軍曹の雄姿は一目でわかる。ひよっこどもからちょっと離れ、半月形に身を反り返らせて、びしっとした姿勢で、あらん限りの罵声をひよっこどもに浴びせている。その口やかましさは思わずこっちまで釣り込まれて笑い出してしまうほどだ。
ところが、この三月ごろから、突然スズメ鬼軍曹の激しい叱咤が聴こえ始めた。これはおかしい。一冬を過ごした若鳥たちはまだ小柄だがきりっと精悍になり、飛び方も敏捷そのもので、鈍重なアホガラスどもを尻目にかけるぐらいわけはないのである。 そのすばしっこい連中に向かって、唐突にも出現したスズメ鬼軍曹が叱咤をくわえているのである。いったい何がどこが間違えたのであろう。 考えられることは、この春の異様な早い足取りだ。暖かくなるのも早く、一ヶ月も早く花々が咲き始めている。スズメ鬼軍曹の本能が解発されるのは、たぶん気温に関係があるのではないか。スズメたちが子育てをはじめる気温に、今年は早々に到達してしまい、その結果、スズメ鬼軍曹が出現し、無経験な若鳥ならぬ一冬過ごしたスズメの兵隊どもに号令をかけ始めたに違いない。ちぇっ、と兵隊どもはいっているであろう。うっせえんだよ、あのあほ。やめろよなあ。 ところで私が心配しているのは、繁殖の季節の後のことだ。空振りに終わった偽りのシーズンを経験しているスズメ鬼軍曹たちはひょっとして任務をさぼるのではないか。なにしろ、採餌活動もせずに必死に働いて疲れ果てた連中なのである。私ならゼッタイ二度のお勤めはご免こうむるね。
画像は、ヤモリのように人家の壁に張り付くヤモリスズメたち。私がカメラを向けたときは十羽ぐらい張り付いていたのだが、一瞬シャッターチャンスを逸した。ちょっと珍しい写真と思う。
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