2000/12/01
いよいよ「メガビタミン・ショック」発売。珍しい契約書をご披露します。
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俺は仕事に関してはスタイリストだ。シンプルなすっきりした美学を大事にする。雑文は書かず小説だけを書く、本も自分だけの作品でスッキリさせる。多少差し障りがあるが、作家は少し名前が出ると蕪雑な仕事を始め出す。エッセー集ならまだよいが、対談集だのなんだのあれこれ雑文集を出して、しまいには他人の作品を集めて、自分の名前を冠して出す。手っとり早く気楽な仕事で金にはなるが、安易なことをやっていると、言霊が怒る。肝心の小説の密度がだんだん希薄になり、しまいには書けなくなってしまったりする。これは否定しがたい事実なので、三十年ぐらい前に気がついて、小説一本に絞り、雑文はあとがきだけに限定した。作家に限らず人間という生き物、堕落することは実にたやすいのである。 そんな美学の持ち主だから、俺は本来ならば「メガビタミン・ショック」のような本は厳密に排除してしまう。それを引き受けたのは、俺がメガビタミン創始者のライナス・ポーリング博士に対して山よりも高く海よりも深い恩義を感じているからである。メガビタミンで早死にを救われた実感があるから、報恩としてこの仕事を引き受けた。ポーリング博士の偉大な業績を顕彰するためで、たとえこの本が想像以上に売れたとしても、それは人々の健康に寄与するということだけが、俺にとって意味を持つ。 だから、俺はこの本の印税を辞退することに決めた。この本がたとえ何百万部売れたとしても、俺自身には一円も入らない。もし間違えて入ってしまったとしたら、俺は言霊に見離されるという確信があるのだ。それは俺にとり死よりも恐ろしい事態なのだ。印税のすべては、「メガビタミン・ショック」の完成に寄与してくれた人々に分ける。印税が0円、というくだりが物珍しいので、みなさんにお見せすることにした。けだし、こんな契約書は空前絶後であろう。第五条をご覧戴きたい。
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