2000/11/29
この本、イチオシ
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かつての戦友、豊田有恒氏の新刊を紹介する。題して「日本SFアニメ創世記」。断然面白くて、ワンシットリーディング。つまり読み出したら一気に間を置かず読んだという意味である。中座してトイレにも行かなかったのでワンシット・リーディング。この言い方ははやり戦友の伊藤典夫から教わった。彼の使ったワンシット・リーディングは、私の「狼の紋章」の批評だったのである。(だから、覚えていたんだな、きっと) この本をお読みになればわかるが、われわれは若い時分、いまだ存在しないSFというジャンル、そしてSFアニメというジャンルが星雲のように誕生し、みるみるうちに急成長を遂げる、希有の時代の申し子だったのである。 驚嘆すべきは、豊田有恒氏の精密な記憶力。私などは頼り無いボロボロの霞網みたいな記憶しか残っていない。三十年ほど前にはまだ記憶が多少は鮮明であり、いつか目の当たりにしたアニメ創世記、醜悪な人間模様を作品化してやろうという計画があったことを思い出した。もちろんズボラな私がそんな計画を実行に移すべくもなく、今ここに豊田有恒氏が鮮明な記憶をもとに巨星手塚治虫先生を中心に、しっちゃかめっちゃかな人間絵巻を演出してくれた。若き日の豊田氏が虫プロの一室に、御大手塚さん自身の手で監禁され、特有の丁寧な言葉づかいによりキンキン声で怒鳴りつけられる場面は圧巻である。なんと豊田氏は身に覚えもない企業スパイの嫌疑をかけられ、それを本気にした御大が、さんざん可愛がってやったのになんたることか、この忘恩の徒めが、と泣いたり喚いたりする壮絶な光景、私も是非見たかった。とはいえ、豊田さんはすぐに虫プロを追ん出る破目になり、婚約者(現夫人)との結婚を控えて四苦八苦だったことを、能天気な私はたった今知った次第である。これは確かに面白いこと折り紙付きの人生絵巻でありまする。
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