2000/06/16
山田章博画伯の傑作
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漫画家の山田章博さんから新刊を献本された。山田さんの場合、お近づきになってすぐに山田画伯と敬称を奉ったのだが、漫画家の場合は普通、80%の力で作品を描くため、画伯とは呼びにくい。そこが漫画家の特殊性であって、100%の力を投入すれば、すぐに夭折してしまう。締め切りに追われて大量のコマを日常的に描いて行く漫画家にそこまで求めるのは酷である。山田さんに「地球樹の女神」のイラストを描いて戴いて、私は満足感を心ゆくまで味わった。以来、私は山田画伯とお呼びすることになった。山田画伯にイラストを描いて貰えた小説家は仕合わせである。滅多にないことだからだ。当時から山田画伯は病身の身で、大量の絵を制作する態勢にはなかったようだ。筆禍事件の多い私は、K書店と改竄問題でもめて、全作品を引き上げることになった。山田画伯は私の引っ越し先のT書店で再刊した時にも付き合って下さったのだが、病いに倒れて、途中から泉谷あゆみさんが後を引き継いだ。「泉谷さんなら絶対に大丈夫、安心です」と山田画伯が言ってくださり、それが心の支えになった。何といっても泉谷あゆみさんはまだ十代だったのだから。 アップした画像は、山田画伯の大長編。上下二巻に分冊されて刊行されたのを覚えているが、私は上巻しか見覚えがない。本当に下巻は刊行されたのだろうか。今回分厚い装幀で刊行された「ラスト・コンチネント」文字通り嘗めるように各頁を楽しんだ。漫画はどんどん頁をめくらせるものだが、さすがは山田画伯、そんな読み方はもったいなさすぎる。当時奥様から戴いたお便りによると、この作品の総頁数は、数倍に達したらしい。それをどんどん刈り込んでもこんな分厚さ。こんな言い方は、ご本人に忌避されるかもしれないが、私としては珠玉の漫画家と呼びたい。珠玉とあれば、寡作なのは致し方ないのだろう。
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