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平井和正の「近況+」過去ログです。

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 2005/05/08  振り子の応援


ご無沙汰です。五月に入ってやっとフォースが少しずつ出てきました。幻魔大戦deep の言霊が去ってから食いつくした米櫃みたいにカラッポになっておりました。全力を絞り出したからです。絶対に成り行きが(自分自身にも)読めない小説、という課題を自分自身に与えたせいです。作家は、どうしても長年書き続けるうちに、自己模倣という罠に捕まってしまうものです。とてつもない、想像を絶した小説作法から締め出されてしまう。ねえ、そうじゃないですか。何を読んでもどこかで見たような小説ばかりでしょ? 最初の一頁を読んだ段階で最後まで聡い読者の目はお見通しになってしまいます。
すでにauで幻魔大戦deep の4巻を読了された読者たちにはおわかりだと思いますが、実は私、振り子と相談しながら書き進めました。振り子を回転させていると、それまで考えもしなかったとんでもないアイディアが湧きだすのです。振り子の使い過ぎで、目一杯フォースを使い果たしてしまったのか、書き上げたとたん内実ともにカラッポになってしまったわけですが……
画像は、auの全使用者に配布されたものです。幻魔大戦deep の表紙、期待したよりこまかいのですが、配布の数量は大新聞全国紙全部の部数を合わせたぐらいあるんじゃないかな。なんだか頭がくらっとしますな。
カラッポになっている間、文字通りなんにもしませんでした。酒見賢一さんが、「幻魔大戦DNA」をすごく褒めてくださるメールを下さったのですが、なんだかむしょうにきまり悪くて、お返事を差し上げられませんでした。その後、「週刊朝日」でも褒めて下さったらしいのですが、まだ拝見しておりません。私のそのきまり悪さは、何に起因しているのか咄嗟によくわかりませんでしたが、きっと私の傍若無人な絶大なる自負のせいじゃないかと思うのであります。
それが実は振り子と相談してるなんてねえ……


  
 2005/04/01  幻魔大戦deep発表を記念して


明らかなことは、「その日の午後砲台山で」(「地球樹の女神全集」ルナテック刊収録)がなければ、「幻魔大戦deep」は存在しなかった。
これは地球樹の主人公四騎忍が東丈探しを、丈の姉三千子に依頼される、と発端から引っ張りだされた。瓢箪から駒が出る、という俚諺そのままである。
幻魔大戦は二度と書かれることはないだろうと思っていた。もはや休火山ではなく、すべての火山活動の終焉を迎えた死火山、と私は受け止めていたのである。
東丈はどうなったのか、と人に問われると、彼は時間と空間になってしまいました、と本気で答えていたからである。
それゆえ、東丈が再登場したとき、一番驚いたのは私、平井和正自身であったといえる。
東丈は恐ろしく扱い難い主人公であった。がちがちの生真面目なのである。唐変木(とうへんぼく)なのだ。私の主人公の中の異端児とさえいえる。
感情移入がしにくい東丈が去って、私は実のところほっとしていたほどである。
その東丈が帰還して、何を始めたか。私が想像することも困難なことをおっぱじめた。詳しいことは本編を読んで戴くとして、ああ、肩が凝るなあ、と一度も思わなかったことは事実である。
画像は全8巻のうち8名の女性たちがそれぞれの表紙に描かれている。彼女たちは振り子の回転につれてストリーリーのうちに次々に送り込まれてきたキャラクターである。いったいなぜ振り子なのか、それも本編をお読み戴くことにしよう。
  
 2005/03/28  まつもと泉さんと私


「きまぐれオレンジロード」で根強いファンを持つまつもと泉さんと久しぶりにお目にかかった。十年前私はきまオレに触発されて「ボヘミアンガラス・ストリート」を書いたのだが、それには不思議ないきさつがある。当時の私は時折、強烈な胆石痛に苦しめられ、その折りは三日三晩、一睡もできずに苦しみ続けていた。テレビをつけると画面でひとりの魅惑的なアニメ少女が動いていた。それがきまオレの鮎川まどかだったのである。
なぜ苦しみの中でテレビをつけたのかわからない。それがきっかけで三日三晩続いた胆石痛が鎮静し、まつもと泉さんの作品、「きまぐれオレンジロード」の存在を知ったのである。不思議なことに私はきまオレのフルカラーの夢を見た。その夢のエピソードは作品としては存在せず、独立した物語だったのである。
そのストーリーが、「ボヘミアンガラス・ストリート」として小説に結実したことをご存じのひとびともいるだろう。
その作品は、いまだパソコン通信時代の電子ブック揺籃期に、電子書店皆無のパイオニアーとして初めて四桁の売れ行きを見せる快挙を成し遂げた。私は作家として初めて、電子ブック普及への夢を紡いだのである。
電子ブックの受け皿は、パソコンという容器でないことを、最初から私は感じていた。寝ころがって読むことのできる電子ブック・リーダーが是非とも要るのだ。そうでなければ、紙の本という伝統的なリーダーと競うことは無理である。
十年後、想像もつかないリーダーが登場してきた。世界に対して驚くべき変容をもたらした携帯端末である。最初にルナテックの本城剛史が持ち込んだとき、これは豆本だ、と一言のもとに退けた。年齢のせいで細かい文字など読めない人間のいいそうなせりふである。しかし、初期の携帯の豆本画面はその後、見事な変身を遂げて、私を唸らせるまでに成長した。これは立派なリーダーだと思う。どこへでも持ち歩ける。
それどころか持ち歩かずにはいられないのだから、そのうちに防水仕様にまでなり、風呂の中で思うさま読書に耽ることが可能になるだろう。
私の電子ブックの夢を紡いでくれた「ボヘミアンガラス・ストリート」の表紙を美しい色彩で、あの夢に見た魅惑の少女を思わせる画像を描いてくださったまつもと泉さんに満腔の感謝を捧げる。なおまつもと泉さんは、不可解な謎の奇病(病名不詳)に悩まされ続けて、五年間休養をやむなくされた。その奇病の名前、療法も最近やっと判明し、再起も間近とのことである。一日も早く華麗な作品が描かれることを切に祈ります。
  
 2005/02/28  雪国奇木館だそうで


閉じ籠もり(冬眠状態)になっているので何もネタがないのである。作家になって以来の長期休暇である。横になるまでもなく、椅子に寄り掛かっただけで他愛なく眠ってしまうし、まさしく冬眠状態そのものである。ひたすら眠い。このところ小説もコミックも映画も面白いものがないので、ひたすら眠るのにちょうどよい。
あまりにも愛想がないと連れ合いにいわれるので、没画像を探した。つまり没画像というのは変なものや著作権が絡んでいたりして、公開できないものが多い。後者のほうは割合あるのだが、やはり公開できないものはできない。
比較的旧聞に属するので没にした画像を引っ張りだして、お目にかけることにしよう。
これは雪国奇木館といって、山奥から奇怪な形相の木を発見するとすかさず蒐集するという御仁が披露しているもの。場所は新潟の田中角栄という人物の大きな銅像が、やっ、と人々に答礼しているあたりにほど近い。
奇木珍木館、前に紹介しようと思い立ったのだが、その理由は忘れてしまった。たぶん性的禁忌が唐変木の私を抑制したせいではないかと思う。三月になると、多少活動期に入るかもしれない。

  
 2005/02/01  月光魔術團、ボヘミアンガラス、そして……


今春、携帯小説が本格的にスタートする。わがe文庫もいよいよ出陣である。画面は、満を持してだれが読んでもゼッタイに面白い、と作家自身が壮語する「月光魔術團」であるのは当然。この作品はヤングウルフガイ・シリーズでもあるわけだが、そんなことを忘れるくらい面白い。ああ、じいさんになると恥も外聞も忘れるのだな、などといってはいけないぞ。
だいたいにおいて作家は自作品を(純文学作家は除く)一つぐらい大衆の皆さんに覚えて貰えば大成功の生涯といえる。大抵は全部忘れ去られる。三途の川に捨てられてしまうのである。作家が生きているうちに、完全に忘れ去られるのはとても辛いものがある。しかし、それが古(いにしえ)からの約束事である。
私は、若い時分からその法則を心得ていた。本はすべてパルプとなって死灰のように消えていく。なんとかして自作品を残す方法はないか。
これはぶちまけてしまうが、そんなことを考える作家さんは私以外一人もいなかったと断言してしまおう。
自分の著書は永遠に残る、とそうした方々は不逞にも確信していたのだ。ああ、なんという傲慢さ! いまはその方々の著書は新刊書店の棚のどこにも見当たらない。図書館にあると思ったら大間違い。図書館ですらも古い本はみんな処分してしまうのである。汚らしいパルプになってしまうからだ。
自作品は永遠に残る、と確信していた作家さんたちは、自分の本棚に残っているだけ、と気がつかねばならなくなった。
私は十年前、1995年に、初めて電子出版を手がけた。そのとき、作家さんたちはそれを無視したのである。平井和正が変なことを始めたらしい、と噂していただけだった。
私は素晴らしくカラフルなイラストに彩られた「月光魔術團」を超小型ノートに仕込み、作家たちの集まりに出かけて披露したが、だれも興味を持たなかった。本当に洟も引っ掛けて貰えなかったのである。
これは愚痴をいっているのではない。嘆いているのである。SF作家ともあろう、未来に対して一見識あるはずの作家たちがなにひとつ未来における自分の立場を見通せなかったことを嘆いているのである。
これはとても悲しい話なのだ。すごく悲しい。一つの時代がお湯をかけられた砂糖菓子のように跡形もなく滅び去っていく、そんなイメージを与える物語だからである。


  

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