2005/03/28
まつもと泉さんと私
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「きまぐれオレンジロード」で根強いファンを持つまつもと泉さんと久しぶりにお目にかかった。十年前私はきまオレに触発されて「ボヘミアンガラス・ストリート」を書いたのだが、それには不思議ないきさつがある。当時の私は時折、強烈な胆石痛に苦しめられ、その折りは三日三晩、一睡もできずに苦しみ続けていた。テレビをつけると画面でひとりの魅惑的なアニメ少女が動いていた。それがきまオレの鮎川まどかだったのである。 なぜ苦しみの中でテレビをつけたのかわからない。それがきっかけで三日三晩続いた胆石痛が鎮静し、まつもと泉さんの作品、「きまぐれオレンジロード」の存在を知ったのである。不思議なことに私はきまオレのフルカラーの夢を見た。その夢のエピソードは作品としては存在せず、独立した物語だったのである。 そのストーリーが、「ボヘミアンガラス・ストリート」として小説に結実したことをご存じのひとびともいるだろう。 その作品は、いまだパソコン通信時代の電子ブック揺籃期に、電子書店皆無のパイオニアーとして初めて四桁の売れ行きを見せる快挙を成し遂げた。私は作家として初めて、電子ブック普及への夢を紡いだのである。 電子ブックの受け皿は、パソコンという容器でないことを、最初から私は感じていた。寝ころがって読むことのできる電子ブック・リーダーが是非とも要るのだ。そうでなければ、紙の本という伝統的なリーダーと競うことは無理である。 十年後、想像もつかないリーダーが登場してきた。世界に対して驚くべき変容をもたらした携帯端末である。最初にルナテックの本城剛史が持ち込んだとき、これは豆本だ、と一言のもとに退けた。年齢のせいで細かい文字など読めない人間のいいそうなせりふである。しかし、初期の携帯の豆本画面はその後、見事な変身を遂げて、私を唸らせるまでに成長した。これは立派なリーダーだと思う。どこへでも持ち歩ける。 それどころか持ち歩かずにはいられないのだから、そのうちに防水仕様にまでなり、風呂の中で思うさま読書に耽ることが可能になるだろう。 私の電子ブックの夢を紡いでくれた「ボヘミアンガラス・ストリート」の表紙を美しい色彩で、あの夢に見た魅惑の少女を思わせる画像を描いてくださったまつもと泉さんに満腔の感謝を捧げる。なおまつもと泉さんは、不可解な謎の奇病(病名不詳)に悩まされ続けて、五年間休養をやむなくされた。その奇病の名前、療法も最近やっと判明し、再起も間近とのことである。一日も早く華麗な作品が描かれることを切に祈ります。
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