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平井和正の「近況+」過去ログです。

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 2004/10/11  台風の夜の神頼み


湘南を強力台風が直撃した。荒れ狂う猛風の音の恐ろしさといったらなかった。生まれて初めて、風の音に恐怖を抱いた。折れた樹の枝が大きな窓ガラスに激突してきたら、と考えた瞬間、神様に祈っていた。うわあああ、神様、この恐ろしい風をなんとかしてください、お助けを、と祈った瞬間、風の音が突如として消えた。旦那、本当ですぜ、祈った瞬間、台風がどっかにいっちめえやがったんで。
こんなことは初めての経験である。助けてくれえ、とわめいた瞬間、助かっていたのである。ジョークの好きなひらりん、きっとこれも冗談だろう、と思う人多数。信じる人極少数。一瞬にして去った台風の対価、神様はどのように請求なさるであろうか。しかし、切羽詰まっていたので、どこのどの神様に救助を求めたのか、覚えていないのである。
なにせdeepにかかりっきりで、台風の荒れる最中も嵐を忘れて書き続けていた。これは停電するかもしれん、するとこの今書いている原稿はぱあっと空に帰してしまうかもしれんと思ったとき、その恐ろしい台風の鯨波が突如として巻き起こったのである。
停電はなかった。片瀬山の下の町は停電で真っ暗になり、下水の水がどんどん上がってきたそうである。神の助けとはこのこと。しかし、お礼を申し上げる神様はいったいどこのどの神様だったのでありましょう。うーん、悩む、悩むぞ。


  
 2004/09/21  幻魔大戦のまぼろし


今、私平井和正は幻魔大戦deepにかかりきりである。まさか幻魔大戦に再度チャレンジ、想像すらしなかった。私の裡ではアダルト・ウルフ同様、すでに完結していたせいである。
その数年前から、ある企業が「幻魔大戦」映画を作りたいとプロモートの動きが始まっていた。私はまったく映画に関して関心がなかったのだが(映画企画は時間強奪と決め込んでいるので)、私の信用する人が橋渡ししてくれたため、お義理でミーティングに顔出ししていた。実際問題、湘南に在住する私は東京まで出るのが億劫でならない。往復の時間を含めて六、七時間ほどのロスが出る。デスクにへばりついて仕事をする私にとっては時間強奪としかいいようがないのである。結局、幻魔大戦は箸にも棒にもかからない箱書きを提出され、手厳しく批判したところで閉幕になった。時間強奪者の皆さん、どうか今後は私を見逃してくださるように。
それがきっかけとなって、翌年から幻魔大戦の言霊がぽちぽちと来訪し始めた。それは過去の蓄積である幻魔大戦と大違いの展開を始めたことで、私の興味を惹いた。やや本気になったのは、この夏の初めである。凶悪苛烈と形容したい今夏は、家の外に出る気さえ奪う物凄さで、仕方なく私は仕事に励むことになった。デスクに牡蠣のようにへばりつく時間さえあれば、私は仕事をするのである。
この画像は、小田原近くの山頂にあるホテルの夕景。ひっきりなしに放牧する羊のような千切れ雲の群れが海上を横切っていく。その光景にひたりこんで、幻魔大戦deepのイメージを展開する私だった。この作品はだれも想像のつかない展開をくり拡げる。
例によって、十七歳の主人公が登場すると、急激な進捗を見るのが、私らしいところだ。しかし、その切り口は、過去の作品のどれとも違う。東丈の孤独な内宇宙と作者の私の内宇宙が重なっていくところに、私は驚愕している。年内完成を目処に執筆中である。


  
 2004/09/02  携帯電話週間(これで一応終わり)


まるで携帯電話週間のようになってしまったが、人気絶大のW21SAに実装したものをお目にかける。コンテンツはお馴染みの月光。美しい液晶で見ると、満更でもない。
まさか携帯電話の画面を用いて、カラーイラスト入り、縦書きで小説が読めるとは。携帯電話の進化の速さは身うちをぞくっとさせる。ナローベゼル(狭縁)にすれば更に一センチも画面が広がるではありませんか。
大・中・小、と字は三段階を選べる。もちろん縦書きだけでなく横書きオーケー。しかし私は日本語の小説は絶対に横書きで読みたい。総ルビでもよめるし、ルビなしでもよい。


  
 2004/08/27  携帯小説、こうなります。


ファイルの全ては既に用意されている。念のためにいいますが、これは画像を貼りつけただけ。こんなふうになりますよ、というデモであります。
携帯小説の読者は若い人々が多い。私は少年マガジンや少年サンデーを読んでいるくせに、これまで全然注意しなかったことがあります。少年週刊誌は総ルビが振られているのです。紙面に目を走らせている私は全然目にも止めませんでした。
しかし、このファイル作りで、私が留意したことは、若い読者は漢字が苦手であるということです。
作家としての私は、ただ原稿をどんどん書けばよかった。漢字に自分でルビを振るなんてことは滅多にありませんでした。よほど難訓であるとか特殊な読み方をするとき、ルビを振ることもありましたが、だいたいは編集者の仕事と心得ていたわけです。
ところが、気がつくと活字になった本に、とんでもない大間違いのルビをたくさん発見するようになりました。校閲というセクションで、ルビを振るのですが、校閲者の年齢が若くなるにつれ、国語力の低下は目を覆うばかりになりました。轟いた、と私の書いた漢字にトドロイタ、ではなくヒビイタ、とルビされています。こういう誤った読みは今、出版界では日常茶飯事です。
で、携帯小説の読者が若年層だと知ったとき、私はこだわりなく、総ルビ、と決心していました。昔、私たちの世代が子供であった頃、子供たちの読む少年倶楽部は総ルビでした。ムズカシイ漢字はその総ルビで覚えたものです。
しかし、総ルビ、実際に手がけてみると大変な作業になりました。私自身、さっと何も考えずに書いているのに、読む段になると、うっと詰まってしまう。日本語はすさまじいほど千変万化することを教えられて、つくづくとその玄妙さに感じ入った次第です。
「月光魔術團」12巻を総ルビつきにする作業、実に四ヶ月間かかりました。心身ともにへとへと、のていたらく。
人に愚痴をこぼすと、下請けに出せば、と軽く言われますが、作家の私が自分で書いた漢字が読解困難になり右往左往するのに、下請けに気軽に出せるはずもありません。
これだけ苦労したんだから、若い人々に漢字を覚えて貰うのにお役に立てば、と謙遜な気分でおります。しかーし、はっきりいって、もうイヤです。ゴメンであります。私に新作を書かせてくださーい。


  
 2004/08/20  待ちかねたぞ武蔵、遅いっ(佐々木小次郎)


これが、私たちの長らく待っていたauWINシリーズの最新機種である。なにも新しい携帯電話を買ったというので、嬉しくて近況+に載せるのではない。
このWIN21の素晴らしいカラー液晶で、携帯小説が読めるのである。画面をご覧になればわかるが、液晶がぐんと広くなっている。今までの私、平井和正は、携帯小説は無理じゃないか説を採っていた。しかし、この広く美しいカラー液晶で、もしかすると、がやれるんじゃないかな、に推移し、今は絶対にやれる、という確信を抱くに至った。
携帯電話は日々に新たに進歩してやむところがない。どんどん液晶画面は大きく広くなる。そのうちに価格においても性能においても、先発のPDAを抜いてしまうのでは、という気がする。一年七カ月で機種交換したのだが、驚くほど安かった。信じられんほどの安さなのだった。

  

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